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2004.11.25 (木)

「 再処理稼働は急ぎ過ぎだ 」

『週刊新潮』 2004年11月25日号
日本ルネッサンス 第142回

政府の原子力委員会新計画策定会議は、去る11月12日の会合で原子力発電所の使用済み核燃料を再処理する政策を柱とした中間報告を正式に決定した。しかし、日本の未来を担うエネルギー政策は果たしてこれで良いのか、どう考えてもこの決定には疑問と不安がつきまとう。

今回の決定は、政府が従来から目標として考えてきた核燃料サイクルの実現を追認したということだ。原子力発電で燃やしたウラン(使用済み核燃料)を化学処理(再処理)して、その中に残っているウランをプルトニウムに変えて混合酸化物(MOX)を作る。それを高速増殖炉で燃料として燃やせば、使った以上の量のプルトニウムが生産され、新たな燃料が生み出される。こうして資源小国の日本のエネルギー問題は解決されるという考え方だ。

だが9月16日付の本欄でも指摘したように、核燃料サイクルの着地点であるはずの高速増殖炉のもんじゅは95年にナトリウム漏洩事故を起こした。事故自体は高速増殖炉本体を破壊するものではなかったといわれるが、事故処理の過程で悪質な情報隠しも行われたことから国民の信頼を失い、もんじゅの再建には今のところ全く目途が立っていない。

再処理の目標が、その処理によって生まれるプルトニウムを高速増殖炉で使用することであれば、同炉の再建の目途が立たないいま、再処理施設を稼働させる意味はないはずだ。

原発大国であるフランスでさえも、高速増殖炉スーパーフェニックスの運転をやめた。日本の原発関係者や青森県六ヶ所村の日本原燃の関係者のなかには、スーパーフェニックスは一定の技術的成果をおさめたから運転をやめたのだと真顔で主張する人々もいる。だが、ドイツの原子力安全委員長のミヒャエル・ザイラー氏はそれは強弁だと指摘した。
「フランスのスーパーフェニックスは一定の成果をおさめたから休止したのではなく、成果が得られないことが明確になったからやめたのではないでしょうか。独仏両国の原子力安全委員会は毎週、意見交換を行っています。互いの委員会に委員を派遣して情報交換を行ってきました。そこから言えるのは、フランスは高速増殖炉スーパーフェニックスから完全に手を引いたということです」

それでも中国やロシアが高速増殖炉開発に前向きだと強調する人々もいる。ロシアは悪名高いチェルノブイリ原発事故を起こしただけでなく、その事後処理も驚くほど杜撰な国だ。中国は急増するエネルギー需要に、文字どおりなりふり構わず供給源を開発している国だ。共に国民の生命や安全に万全の注意を払う国とは言い難い。そんな両国が高速増殖炉に関心を示しているとしても、日本が、それ故にその気になる必要はない。日本が高速増殖炉を最終着地点とする再処理工場を稼働させるか否かを決める判断基準は、日本が目指すエネルギー政策に高速増殖炉がどんな形で貢献できるのかという点であろう。

信頼を失った高速増殖炉

21世紀の原子力のあり方を研究する目的で結成された原子力未来研究会の山地憲治東京大学教授は指摘する。氏は新計画策定会議のメンバーでもある。
「現在確認されているウラン埋蔵量は約450万トン、未発見ながら埋蔵量はさらに1100万トン存在すると推定されています。この他にもウラン節約手段を講じることで、2050年までのウラン需要は既存の技術と資源で十分満たされていると、IAEA(国際原子力機関)の97年の報告書は結論づけました。国際的なウラン資源の需要からみれば、高速増殖炉の導入は2050年までは必要がない、高速増殖炉を導入するにしても2030年頃まで決定を待っても問題はないのです」

高速増殖炉は必ずしも今すぐに必要なものではないというのだ。また、ウランを再処理使用する考えは、当初、ウランが非常に高価だったからだが、ウラン事情は一変し、価格も下がった。この点から量も十分だ。再処理を急ぐ必要はないのだ。

再処理しなければ各地の原発から出る使用済み核燃料の保管場所がなくなり、原発が順次停止されるとの指摘も硬直すぎないか。

六ヶ所村が、各地の原発の使用済み核燃料の運び込みに同意してきたのは再処理施設がやがて稼働し、MOXに形を変えて高速増殖炉やプルサーマルで燃やされるために再び県外に運び出されるとの約束があるからであり、再処理しなければ六ヶ所村や青森県を国が騙すことになり、使用済み核燃料のひきうけが拒否されるばかりか、すでに搬入した分も突き返される恐れがある。だから再処理は必要なのだという考えだが、現実を反映しているとは言い難い。福井県美浜町議会は使用済み核燃料の中間貯蔵施設の受け入れをいち早く表明した。青森県むつ市も中間貯蔵に前向きである。

山地教授は日本の使用済み核燃料の貯蔵技術は、安全面でも経済性でも確立されており信頼出来るだけに、必要な期間、貯蔵する方法を採用すべきだと強調する。

国民軽視は許されない

ザイラー氏も核燃料の貯蔵法には発電所の敷地内で小規模で比較的短期間の貯蔵を目的とするものから、敷地の外に長期、大規模に行うものまで幾つかあると語る。

「スウェーデンのようにプールに貯蔵するのか、アメリカのようにキャスクに入れて貯蔵するのか、カナダではコンクリートに固めて貯蔵しています。各国で技術、スペースなどを考え、最善の方法を選んで、高速増殖炉の技術的展望を見ることが大事なのです」

その場合の貯蔵は、高速増殖炉をめぐる日本と世界の動きがどうなるかによって、中間貯蔵の性格を帯びたものになるのか、永久的なものになるのかが決まってくる。だが、現時点では日本での高速増殖炉の先行きは見えない。世界の事情も同様だ。ならば、六ヶ所村の再処理工場の稼働は、展望の見極めがつくまで待つのがよい。再処理工場は一旦運転を開始してしまえばプルトニウムに汚染される。毒性の強いプルトニウムは半減期が24000年、それを処理するには膨大な費用が必要だ。

日本のエネルギーの未来政策には、国民の理解と支持が必要だが、今回の政策決定のプロセスは恥ずかしいばかりの国民軽視である。これほど重要な政策であるにもかかわらず、新計画策定会議は今年6月に招集され11月12日に最終決定が下された。わずか5か月の議論である。また同会議の人選は、原子力業界に関わってきた人々が圧倒的多数を占め、慎重派はごく少数である。最初に結論ありきだと言われかねない。公正さを欠いた委員会での一方的な議論のなかで国民の意思を問うこともなく、不可逆の道を急ぐ愚は犯してはならない。今は中間貯蔵で時期を待つべきである。

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